東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1266号 判決 1981年1月19日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の本件訴を却下する。(仮にそうでないとすれば)被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴人は、「控訴棄却」の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
(付加)
一 控訴人は、当審において新たに、乙第五号証の一、二、第六、第七号証を提出し、当審における控訴人本人の供述を援用した。
二 被控訴人は、右甲号各証の成立を認めた。
理由
本件につき更に審究した結果、当裁判所も被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断する。
その理由は、次のとおり訂正、付加するほか原判決の理由と同じであり、当審において新たに提出、援用された証拠を参酌しても原審の認定、説示は左右されないので、右の原判決の理由をここに引用する。
(訂正、付加)
一 原判決五丁裏四行目の「証人仁宮美の証言」の次に「、当審における控訴人本人の供述」を挿入する。
二 同六丁裏二行目から同末行までを次のとおり改める。
また、控訴人は本件訴は訴の利益を欠く旨主張するが、前記各証拠によれば、被控訴人は本郷武雄、亡同てるへの二女であること、現在東京家庭裁判所に右武雄及びてるへの遺産に関し遺産分割申立事件が係属していることが認められる。従つて、被控訴人が戸籍上右武雄、てるへの二男とされている控訴人を相手としてその戸籍上の亡父亡との間に親子関係が存在しないことの確定を求める本件においては、右の親子関係の存否は被控訴人と控訴人との身分関係にも影響を及ぼす基本的身分関係であり、戸籍を訂正して、その真実の身分関係を明らかにするためにも、また、右遺産相続に関し相続人の範囲を確定する上からも被控訴人に本件訴の利益があるものというべきである。
さらに、控訴人は本件訴の提起は信義則に反し、権利の濫用である旨主張するところ、前記証拠及びその方式及び趣旨から真正な公文書と認められる乙第三号証並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人は出生以来本郷家の二男として認められ、自他ともに同家を継ぐべき者と期待し、四〇年近くの間同人と本郷武雄、同てるへとの親子関係を争う者はなかつたこと、しかし、控訴人は仁宮武夫、同美に養育され、幼少の頃から右両名が実父母であり、武雄、てるへは祖父母であることを知らされていたこと、昭和四七年てるへの死亡後、武雄及びてるへの遺産相続問題に端を発し、被控訴人と控訴人の母仁宮美との間に紛争が生じ、被控訴人は武雄、てるへと控訴人との間の親子関係を否定し、昭和四九年一一月東京家庭裁判所に家事審判法二三条に基づく親子関係不存在確定の申立をしたが、右身分関係の不存在の事実につき当事者間に合意が成立しないため、右事件は同条による審判がなされるに至らず終了し、本件訴が提起されるに至つたこと、右遺産相続に関し控訴人は相続権をあくまで主張する意思はなく(てるへからの遺贈は主張するものの如くではある)、いまさら右身分関係を否定し、戸籍訂正までしようとする被控訴人の態度に困惑していることが認められる。右の事実によれば、控訴人が本件訴を提起され、親子関係不存在確認の裁判を受けることに困惑し、不満を抱いている心情は理解できるが、同人は前記のように右身分関係につき被控訴人の主張を結局は争つているものであつて、本件訴訟につき被控訴人に訴の利益があることは前期のとおりである以上、真実の身分関係の確認を求める本件訴の提起が信義則に反するものとは認め難く権利の濫用になるということもできない。
以上の次第で、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。
よつて、民訴法三八四条、九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。